動植物の生態系を歪め、自然破壊と水脈を分断するリニア中央新幹線
たびたびリニア中央新幹線のことを取り上げてきました。国土交通省がJR東海の不充分な環境影響評価に基づき2014年に認可した工事が1都6県で少しずつ進行しています。
この工事認可に対しては、ルートにあたる1都6県の沿線住民が認可の取り消しを求めて訴訟も起こされています。この裁判のことは以前にも報告していますが、9回にわたる原告住民側の陳述が3月19日に終わりました。これからは、住民の陳述や弁護団の指摘に対して、被告側が反論を述べていくことになります。
リニア中央新幹線の品川駅、名古屋駅新駅工事を受注した大手ゼネコン4社の談合疑惑が発覚し、東京都は大成建設と鹿島の幹部逮捕を受けて2つのゼネコンを2か月から最長で1年半の受注指名停止処分を行ないました。一方でJR東海は、大手ゼネコンが受注した工事はそのまま引き続き任せるとして、工事を強引に進める姿勢を崩していません。
4月1日(日)に大田区民ホールアプリコでリニア・市民ネット東京、ナマケモノ倶楽部が共催する「百害
あって一(いち)リニアなし」という市民集会に参加しました。この集会では元テレビ朝日の映像プロデューサー中村徹さん作成の「リニア中央新幹線がやってくるヤア!ヤア!ヤア!」という30分ほどのアニメを上映後、アーサー・ビナードさんの講演、ナマケモノ倶楽部代表世話人の明治学院大学教授の辻信一さんとの対談と続きました。
アーサーさんは、講演の中でリニアの超電導は英語でSuper Conducting Magnetic Levitation Systemと呼び、略してMaglev。日本語にする際「マグレブ」となる。「マグレブ」では「早そう」でもないし「かっこよさそう」でもない。だから電通語っぽい「リニア」を採用したにちがいないと話されました。言葉による印象操作がここでも行われているような気がしてなりません。
さて、リニア中央新幹線が何故問題か。
そもそもリニア中央新幹線とは?簡単にまとめます。
- JR東海による単独事業
- 東京―名古屋間を40分で結ぶ新しい新幹線
- 2014年着工、2027年開業予定
- 建設費5兆5千億円+3兆円(財政投融資による)。
- 2038年工事を再開し、大阪まで延伸
- 東京―大阪間67分
- 2045年開業
- 建設費3兆6千億円
- 在来線の回転モーターではなく、超電導磁石を使ったリニアモーターが特徴
- そのために多くの問題が発生している
リニアモーターは、磁石のN極とS極から生じる反発と誘引の力を利用して、浮上力、推進力を引き出すものです。リニア中央新幹線の場合は、電気抵抗をゼロにする絶対零度に近い極低温で働く超電導磁石を用います。高速走行のために膨大なエネルギーを使い、強力な電磁波を発生させるため、さまざまなマイナス面が生じます。
鉄道審議会の答申は「新幹線は安全性、信頼性、省エネ性、速達性、ネットワーク性、定時性、建設費用等の点ではすぐれているが、リニアの方が高速性の点で優れているのでリニアの方が適当である」と述べ、高速性以外のすべてで新幹線の方が優れているのに、速いからリニアの方が良いという意味不明ともいえる答申でリニアが許可されました。なぜリニアなのか、全く理由が分かりません。
いったいリニアの欠点とは何か。
リニア・市民ネットのパンフレットでは以下の点についてまとめられています。
①リニアは未完成の技術で膨大なエネルギーを消費
②リニアの安全性と事故時のリスク
③「絶対ペイしない」リニアの赤字は税金で補填?
④リニアが地方自治体を圧迫する
⑤リニアによる南アルプスの破壊と地下水の枯渇
⑥電磁波(磁界)の乗客への健康影響は?
⑦5680万㎥の残土が惹き起こす2次公害
⑧美しい自然景観と貴重な歴史景観に決定的なダメージ
⑨大深度トンネルの存在で地価は下落する
⑩杜撰なアセスのまま着工して大丈夫ですか?
⑪JR東海の不誠実、不充分な説明、住民は納得していません
品川・生活者ネットワークはこのパンフレットを参考に簡単なチラシを作成こちらをご覧ください。
こんなにたくさんの問題、疑問があるリニアにあなたは賛成しますか?
ナマケモノ倶楽部の辻信一さんは20数年前から、樹木を守る運動やナマケモノの生態を守ろうという活動を続けています。速く早くをめざして経済的な豊かさや便利至上主義のように走り続けてきた生活を立ち止まって、スローな生活を想像してみては!と語りかけた。ナマケモノは成長志向の人類とは別に、スローな方に進化していることが素晴らしいと絶賛。ナマケモノを救おうなんておこがましい。人類がナマケモノになる道を究めて、自然環境を今に生きる私たちが、未来に生きる子どもや孫、子孫に残す責任があるのではないか。それを破壊して、今の生活さえよければという発想がリニアそのものではないか。
ナマケモノ倶楽部の辻さんの話を初めて伺うが、とても共感した。(井上八重子)