子どもの権利を認知してはじめて助けてほしいということができる

 

いじめのもつ権利侵害を基盤とした被害者救済という根本の解決を怠って、いじめ根絶を合言葉に「いじめがない」ことが善、あることが悪という発想を物差した対策しかとってこなかったことがいじめ対策の失敗であったと語る喜多明人代表。

朝から冷たい雨が降る1222日土曜日、東洋大学白山キャンパスで子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどいが開かれました。

主催は子どもの権利条例東京市民フォーラムで、自治体に子どもの権利条例を策定することをめざして、さまざまな角度から情報を発信し、共に学びあう活動が行われてきました。12回を迎えるつどいでは、東京都の子どもの権利擁護相談専門事業の専門員である弁護士さん、基礎的自治体からは子ども(の権利)条例を根拠に、子どもの権利擁護の取り組みを行っている目黒区・豊島区、子ども条例の改正を前提に第三者機関的な子どもの権利擁委員制度の設置を検討している世田谷区からの報告がありました。 

品川区はいじめ自殺で尊い命を失い、調査対策委員会が発足し解決策を提言する報告書が出され、議会でも「いじめ解決、豊かな心の育成に向けた取り組みの強化に関する決議」を全会一致で採択しました。ですから教育委員会、子ども未来事業部、区議会全会派にこの企画を知らせしたところ、幸いにも職員や賛同する議員の参加があり、他の自治体施策を共有できたことは、今後の子どものいじめを解決する制度づくりに生かせるものと個人的には期待しています。子どもの権利に着目した子どものいじめ救済のしくみが動きだしている自治他の様子に、品川区としてどのようなしくみをつくればよいのか、思いをめぐらしながら、それぞれの報告を聴きました。

シンポジウムの前段、当会代表の早稲田大学教授の喜多明人さんの基調講演がありました。いじめ問題の背景や解決対策の間違い、そしてなぜいじめ被害者が学校不信に陥るのかという問題提起に、制度的にも学校を非難するだけでは問題の解決にはならないということを理解しました。冒頭、喜多先生は学校や教育委員会をバッシングしても根本的な問題解決にはならないとおっしゃいました。私も同じように感じていて、それは品川区のいじめ調査対策委員会の報告のなかで、学校の問題の指摘が多く、子どもの権利という視点での問題意識が見られなかったことにあります。

 
会の終了時に当会事務局長の森田明美先生とお話をしましたが、調査委員会に東京都の権利擁護委員などをどうして入れなかったのか?入れていれば子どもの立場でどうだったかという視点が入いり、遺族の方に沿うことができたのではないかと指摘されました。教育委員会にその選択肢の発想がなかったという事実は、子どもの最善の利益に基づくいじめ対策となりえるのかという課題を浮き彫りにしています。 

品川ネット主催の待機児対策を考える学習会でも講師をお願いした、東洋大学森田明美教授は当会の事務局長です

 

いじめの根っこはストレスにあり、対等な関係では喧嘩であり、弱者に向ける行為がいじめである。そのストレスの要因は大きく二つ、一つは競争による子ども同士の関係不全、二つ目は自己喪失感のストレス。世田谷区が実施したアンケートによると小学校生の約48%、中学生の約68%が「自分を好きでない」という結果が見られたといいます。もう一つ興味深い話で、学習意欲は低下しているのに、小学4年生の国際学力テスト点数が上昇!でも喜んでいてはいけない。なぜなら期待に応えようという偽りの自己形成がそこにありストレスに繋がっているというのです。   

いじめられている子は、繰り返される暴行、うざい、のろいなどの精神的攻撃に対して自尊感情が破壊され、自分がだめだからいじめられると自分を責め続け、いじめの不当性や権利侵害、相手が悪いということに気づかず、助けを求めることもできない。しんどくなっている子どもに相談しなさい助けを求めなさいといっても、解決にはならないのです。だから権利侵害であるといういじめへの気づきを学ぶこと、子どもの権利の学習が求められています。子どもが、いじめが権利侵害であることを認識して、はじめて「助けを求めていいんだ」ということに気づくことが「いじめ救済」の出発点である、という先生の話に深く納得しました。

子ども救済の根本は「子どもの権利」を子どもたちに浸透させることだということを多くの人に広め、共感する人を増やしたいと痛切に感じました。

 (写真左から)東京都子供の権利擁護相談専門事業専門員弁護士の池田清貴さん、せたがやチャイルドライン星野弥生さん、豊島区子ども家庭部子育て支援課長活田啓文さん

大津いじめ事件を含め、なぜ遺族が不信感を抱くのか。それは学校災害の原因究明が進まない理由に「過失責任主義の賠償法制」があるからだといいます。

学校、教育委員会による原因究明は、結果的には「過失責任」(安全配慮義務違反)の立証につながるため、現実的に消極的にならざるを得ない。だから無過失責任主義に立つ学校災害補償法(及び学校事故損害賠償法)の制定が必要だといいます。

〈原因究明=過失責任追及〉ではなく、〈原因究明=再発防止・子どもの権利擁護〉につながるしくみがもとめられています。※ユネスコ「教員の地位に関する勧告」69

学校を支えるシステム・制度の再構築と、何より子どもの権利条約の理念に沿った子どもの権利条例を品川区にも制定して、子どものいじめを解決していくことをみんなで考えませんか。(井上八重子)